2012年5月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
無料ブログはココログ

2012/05/12

Book:『帰郷者』(ベルンハルト・シュリンク)

Photo

主人公ペーターが少年の頃に、祖父母が編纂していた小説の断片を見つける。しかし結末は破り去られていた。その小説の描写から、少年は死んだと知らされていた父親についての物語だと理解し、ペーターが青年に成長したときに父親探しを始める。

この小説もまたシュリンクの大ヒット作『朗読者』と同様、ナチスの残した負の財産、心の傷のようなものがテーマになっているのだ。
インターネットでレビューを検索するとおおむね好評のようなのだが、自分には『朗読者』のような明確なテーマがつかめず、読破したものの殆ど内容が残らなかった。それは、現実のペーターの人生だけでなく、小説の断片やホメロスの「オデュッセイア」が劇中劇のように散りばめられており、ストーリーに集中しにくかったからでもある。

またペーターの元恋人(ヴェロニカ)の息子マックスについて全編に所々に出てくるのだが、なぜペーターが実の子でもなく結婚していたわけでもない女性の子供を、数年間同棲していたとはいえ、そこまで気にかけるのか全くわからなかった。しかもマックスと具体的にどんな風に過ごしたのか、どんな会話が交わされたのかほとんど記述がないため、重要なエピソードを読み落としたのだろうかと、読みながらそれが気がかりだった。

また一方、ペーターの現在の恋人バーバラとの出来事は細かく描写されているものの、バーバラに生活感を感じさせないため二人の関係に本当に恋愛感情があるのか微妙だったりした。

ペーターはドイツ在住だが、父親は偽名(もしくは改名した)を使ってアメリカの大学で法学を教えており、父親のゼミ(公開講座のようなものか)に参加することを理由にしてアメリカへ渡る。しかしゼミが開催されることになっているホテルのくだりがまたよくわからない。なぜ無人のホテルなのか? なぜゼミに集った学生たちは暴行されるのか? このことがストーリーに大きな影響を与えているのだろうか? いくつもの疑問符が浮かびながら小説はエンディングを迎えた。

2012/04/10

Book:『架空通貨』(池井戸潤)

Photo
ある地方の地場の大手企業と、多数の下請企業や協力会社からなる企業城下町。
その企業はその街でしか通用しない振興券なる「紙幣」制度を流通させる。
果たして、企業の実態は!?

架空通貨の流通とマネーロンダリングという壮大なテーマを、正義感や復讐をからめて面白く描いてあり、読み進めるにつれて現実にありえそうな話に思えてくる内容だった。
エンディングが少しバタバタしたあと、収まるところは収まって、あっけなく終わってしまうところも現実感があった。

準主役の女子高生が、妙に暗くて大人びたキャラだったのが少し残念なのだが、もしここで、溌剌とした女子高生が事件解決に立ち向かう話だったらチープなミステリーとなって興味半減するから、この陰気な女子高生の設定は、それはそれでよかったのかもしれない。

2012/03/26

Book:『天地明察』(冲方丁)

Photo幕府御用達の碁打であり天才算術家である渋川春海の暦制定に命を賭ける情熱の物語。彼が実在人物ということは読了後に調べて初めて知った。
時代小説を読んだことがないため、本作品の時代小説風の文章や文語調の算術問題がなかなか慣れず読むのに時間がかかった。

物語の終盤になって、幕府が800年の伝統のある宣明暦からの改暦を行う際、春海の作成した大和暦が不採用になったところから俄然面白くなった。特に、春海が真理である大和暦の採用を勝ち取るために周囲を巻き込んで策を練って実行していく様子が爽快だった。この部分はほんの数ページしかないのが少し物足りなかった。

アマゾンのユーザーレビューを読むと、低評価コメントの中には算術問題や天文学そのものに対する疑問を呈するものがあったのだが、自分は純粋に物語として楽しめた。

また本作品は映画化され2012年夏頃に公開されるようである。渋川春海役は岡田准一さん、えん役は宮﨑あおいさんである。「えん」のイメージは宮﨑あおいさんにぴったりだと思う。

2012/01/14

Book:『年下の男の子』(五十嵐貴久)

Photo_3

五十嵐貴久さんの『For You』を読んで非常に面白かったので、ラブコメ路線の本書を見つけたので読んでみた。

23歳のイケメン児島くんから猛烈にアタックされる37歳の晶子。晶子は大手乳業会社勤務の課長補佐(のちに課長に昇進)、児島くんはその宣伝を請け負う中小PR会社の契約社員。晶子は最初は恋愛感情はなかったものの、次第に惹かれていくという内容。

題材としては面白く文章もサクサクとテンポがよい。しかしファンタジーに陥らずにリアル性を追求したためか、晶子さんがしきりに年齢差を気にするのが何とももどかしかった。

結婚をあきらめているわけではなく、かと言って積極的に婚活するわけでもなく、30代後半にしてまだ「待っていればいつか王子様が・・・」と夢見がち。その割に、マンションを買ってしまったのは、結婚しなくてもいいエクスキューズをあらかじめ作ってしまうためにも思える。そういう点で、一般的なアラフォー独身女性の心情を描いているのだろう。

一方、その王子様キャラの児島くんは山岳部出身で体力に自信あり、高身長でイケメン、契約社員で1年目ながら仕事面では吸収力がありフットワークが軽くアイデアも豊富。これならどこの企業でもバリバリやっていけるでしょう、という男子だ。

児島くんに強引に押し切られる形で晶子は付き合い始めるが、晶子もまんざらでもない様子。しかし年齢を始終気にしていて「いずれ児島くんはもっと若い女の子と付き合うようになる」と決めつけて、その時に別れを切り出されて傷つくよりは、いっそ幸せな気分のときに自分から別れてしまおう、とクリスマスデートで別れを切り出してしまう。その後もウジウジ・・・・。

最後の展開は極端すぎて笑えたが、この時点で続編『ウエディング・ベル』の構想があったのかもしれない。

2012/01/04

Book:『青春の門 ①~⑦』(五木寛之)

Photo
文庫本(講談社文庫)全七巻で、合計3,973ページを読み切った。
こういう一人の主人公の幼年時代から成年時代に至る成長の過程を軸に据えた物語をビルドゥングスロマン(Bildungsroman、教養小説)と呼ぶそうだ。

本書は伊吹信介という九州の筑豊の炭鉱地区で生まれ育った少年の話であり、何度も映画化・ドラマ化されたようである。
大長編であるが、登場人物はさほど多くなく、色々な場面で同じ人に出会うという偶然が多いのは小説ならでは、ということだろう。
もし高校生の頃にこの作品を読破していればまた別の感想を持ったと思うが、伊吹信介の年代をとっくに通り越えている自分が読むと、信介の一途さと若さ故の悩み・迷いなどが初々しく思えて、少々気恥ずかしい感じがした。

織江が世間の荒波にもまれ精神的に大きく成長していくのに対し、信介は織江との恋愛をうまく育てることができずフワフワと優柔不断で、結果的にいつも織江の気持ちを弄んでしまっている。また信介は早稲田大学に入学しながら勉強は苦手という設定で、そのため以後の青年時代において知性があまり感じられないという少し残念なキャラクターである。織江のマネージャー業も中途半端に終わっている。

この小説は第七部挑戦篇が一番面白かった。第六部を読み終えてすぐに第七部を読み始めたとき、突然北海道の江差の描写から始まるので、一瞬「あれ、1冊飛ばしたかな?」と思ったほどだ。しかし第七部はサスペンス風で、北方領土をめぐる国際問題が詳しく描写されており、初めて知る事が多くためになった。

第七部はハバロフスクへ旅立つところで終わるが、その続編第八部風雲篇も、途中まで雑誌に連載されたらしい。いずれ刊行されると思うが待ち遠しい。


2011/11/20

第54回 東京国際ギターコンクール本選

Photo2011年11月20日  日経ホール

課題曲は「エキノクス(武満徹)」

出場順に

■Andrey PARFINOVICHさん (Russia)
 繊細な音色で、非常に丁寧な演奏だった。音量は小さめだったが、フレット移動時の弦をこする音が全く聞こえず美しいと思った。個人的には2番目によかったと思う。
アグアドの「華麗なロンド」が美しかった。

■小暮浩史さん
 この前の演奏者(PARFINOVICHさん)が弦の音が聞こえなかっただけに、小暮さんの演奏は結構、キュッキュ、カチカチという音が若干気になったが音量があり、音楽に勢いがあった。

■Oegmundur Thor JOHANNESSONさん(Iceland)
 足台とギターレストの両方を使う独特のフォーム。つまり左足を足台に置き、さらにギターレストを使っているものだから、ギターの側面版の部分が常時アゴにくっついているようなフォームだった。 

■Florian LAROUSSEさん (France)
   youtubeでいくつも演奏が見られるため、一番期待していた。ところが最初の曲『フェアウェル(J.ダウランド)』で数小節後に暗譜をど忘れされたようだった。会場が凍り付いた瞬間だった。再度冒頭から演奏を始め事なきを得た。音色は非常に美しい。ただこの人が得意なはずのバロックで最初の失敗をしてしまったため、なんとなく緊張感のある演奏になった気がする。

■Andrés CAMPANARIOさん(Spain)
  この人は演奏時間までの会場に到着せず、しばらく待っていたが、結局棄権扱いとなり、次の藤元さんが時間を繰り上げて演奏することになった。

■藤元高輝さん
 前の人が未到着により棄権というハプニングのあとの演奏だったが、落ち着いた様子だった。藤元さんは演奏時の姿勢が非常によく、教本のお手本のようだった。難解な課題曲からスタート。他の4人の課題曲を聴いて、結局この曲の良さがわからないままにコンクール見学が終わりそうだったのに、ここで藤元さんの演奏を聴いて、初めて曲想も美しいことがわかり、他の4名よりも明らかにレベルが上だった。続いてバッハを無難にこなし、その後のレゴンディの序奏とカプリスは、高速でかつ美しい音色を維持し続け本当に素晴らしかった。正直ここで拍手したいぐらいだった。そして、最後がヘンツェの『王宮の冬の音楽より グロスター』という曲で、これまた難解で、後半はギターを叩きながらパーカッシブな演奏が入る。藤元さんは若いのに現代曲が得意なのだろうか、この曲もまた見事に弾ききった。

 以上、結果を待たずに帰宅したのだが、ネットで速報を見た。

結果は、
  一位 藤元 高輝
  二位 Florian LAROUSSE (フランス)
  三位 小暮 浩史
  四位 Andrey PARFINOVICH (ロシア))
  五位 Oegmundur Thor JOHANNESSON (アイスランド))

予想通り、藤元さんが優勝! おめでとうございます!
小暮さんも3位。健闘されました!

会場にギタリストの益田正洋さんが来られていて、いい人オーラが全開だった。さっそく会場内のショップで益田さんのCDを買って帰った。

2011/09/04

Book:『都会と犬ども』(マリオ・バルガス=リョサ)

Photo昨年『楽園への道』を読み終えたとき、著者のバルガス=リョサがその年のノーベル文学賞を受賞したため、それ以来気になる作家となっていた。それで1963年の出生作である本書が新装丁で再刊された時に買っておいたのだが、一夏かかって読み終えた。

翻訳が優秀である。訳文が非常にこなれていて文体が美しい。しかも時間や場所、語り手が自由に行き来するこの物語を、読者を混乱させることなくグイグイとストーリーに引き込んでいく。

物語の舞台は、ペルーの士官学校。3年生から5年生の話だ。この3~5年生というのはどうやら日本で言う高校1~3年に該当するようだ。多感な年齢の少年達の物語である。
第1部、第2部、エピローグの3章だてで、第1部は窮屈な士官学校の中での規律を守れない生徒達の行動や日常化するいじめが延々と描写される。ストーリーが動くのは第2部以降だ。普段からいじめられていた気の弱い生徒アラナが軍事訓練で頭に弾丸を受けて死亡する。スキャンダルを恐れる学校側は、生徒が自分の銃を誤って暴発させた事故として片付けようとする。

ところがアラナの友人とされるアルベルトが学校側に告発し、コトが大きくなっていく。穏便にすませようとする大尉たちと、進退をかけて真実を追求するガンボア中尉の対立という構図もまた面白い。
大尉がガンボア中尉に
「君は自分の将来を台無しにしたいのか?」
と問うと、ガンボア中尉は
「軍人は自分の任務を果たすことで、軍人としての将来を閉ざすようなことはありえない」
という名言を放つ。

そしてエピローグ。ジャガーという暴力信奉主義の生徒が心のうちをさらけ出すところは感動的だった。

実在する士官学校(レオンシオ・プラド)をモデルにしたことで、発刊時は将校が本を焼く騒ぎになったそうだ。
本の帯によると、ノーベル賞受賞理由が「権力の構造の見取り図を描き、個人の抵抗、反乱、敗北の姿を鋭く表現した」とのことである。反骨精神豊かな作家である。

2011/05/20

Book:『本は絶対、1人で読むな!』(中島孝志)

Photo 以前に読んだ中島氏の「すごい読書!」が非常に面白かっただけに、期待しすぎたかもしれない。

この『本は絶対、1人で読むな!』は読書会のすすめ、のような本である。同じ本を複数の人で読んで討論すれば、1人で読んでいたときに見落とした部分や自分では軽く読み飛ばした部分が、他の人にとってはかけがえのない一文だったりすることを発見する。そういうところから仕事や人生に活かせる情報が得られる、という内容で、そんなに珍しいことが書いてあるわけでもなかった。

各セクションの終わりに、まとめのような一言がついている。たとえば「朝読書の効果は絶大。できれば読書会も朝にやろう」とか「本のチョイスは一つの個性。本を通して人を知るのも読書会の楽しみ」というような類のものだ。思うに、ここだけを重点的に目を通すだけで、本書のすべてがわかってしまう。

ただし、非常に面白かった部分は、「マスメディアを信じてはいけない」というセクションだった。

著者の中島氏は読書家で年間2000冊から3000冊は読むそうである。速読術には頼っていないとのことだから、今後は効率的に読書をこなしていく方法をぜひ伝授していただきたいものである。

2011/05/07

Book:『For You』(五十嵐貴久)

For_you これは非常に面白かった。

著者はホラー小説でデビューをしたそうであるが、こんな女性目線からの恋愛小説も書けてしまうとは、何と才能豊かな作家なんだろう、と思う。

働く女性の心理をリアルに表現しており、いまだに女性作家が書いたとしか思えない。このリアルさは、柴田よしきさんの『ワーキングガール・ウォーズ』とか篠田節子さんの『女たちのジハード』等に共通していると思う。いずれも好きな作品である。

この『For You』もまた、昭和の終わり頃に大学生だった世代にはたまらないでしょう。
この世代の読者なら、多くの人が自分自身の経験に重ね合わせながら、当時の世相や若者文化を映像のようにくっきりと思い浮かべることができるだろう。それほど圧倒的な文章力だった。

裏表紙に書かれているあらすじ(=Amazonや出版社による作品紹介)だけでは、「亡くなった伯母の日記に書かれていた恋愛? ふーん、よくある純愛モノ?」ぐらいの印象かと思うが、これは実際に読んでみないと、その面白さはとうてい説明できないだろう。

ストーリー展開としては、終盤はある意味松本清張ミステリー風でもある。

この作品名でググって見ても、やはり感想を書こうとすると内容に踏み込んでネタバレになってしまうためか、絶賛しながらも肝心の中身について作品紹介文以上の事を書いているブログ等は殆ど見つからなかった。

映画化しても面白いんじゃないかと思った。

2011/05/04

Book:『定年と読書』(鷲田小彌太)

B008 定年にはまだまだかなりあるのだが読書論についての本は好きなので、書店の新刊コーナーで見つけたので買ってみた。

著書の鷲田氏は、札幌大学の教授である。自分は札幌大学という名前を知らなかったのだが調べてみると偏差値が40ぐらいの大学であった。そこの先生が「偏差値の高い大学を出た人のほうがいい仕事をしており、またいい顔をしている」と複数の箇所で書いてあり、表現として「?」とは思う。もしくは札幌大学に在籍している学生はこの本を読まないだろうという前提なのだろうか。ただし著者本人は1966年に大阪大学文学部を卒業されているので偏差値は高そうである。

定年後の読書方法についてゆったり書かれているかと思いきや、ところどころ超過激だ。例えば、抑圧された少数派の立場から物事を考え文章にするノーベル賞作家の大江氏が、アンチ大江的な意見を封じるよう出版社に圧力をかけた、とか、堺屋氏や大前氏の本には気配のよさが見られない(気配という意味がちょっと理解できなかったが、つまり長くつきあえない、ということだろうか)と断言してる箇所などが出てきてびっくりした。

やはり読書法について書かれた本は何十冊も存在するが、いずれも読書をして知性を得る、という結論になり大筋的にはどれも似たり寄ったりになってしまうためか、こうしてちょっと過激な意見を述べて差別化を図っているのかもしれない、と思った。

しかし奥様も読書家になったと書かれているが、挙げられた本が「世にも美しいダイエット」(宮本美智子)だった!

«Book:『アフリカの日々/やし酒飲み』(池澤夏樹=個人編集世界文学全集)